十六夜橋 (ちくま文庫)



十六夜橋 (ちくま文庫)
十六夜橋 (ちくま文庫)

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人物にペンを貸して語らせる作家

石牟礼道子氏の作品はこの「十六夜橋」と「苦海浄土」しかまだ読んでいないが、
人の心に宿る哀しみや喜び、痛みを余さずすくい上げる石牟礼氏の文章にはただ息を呑む。
本作においては、実直ながらも反目しあう土木事業の主・直衛と国太郎、
心の感じやすさゆえに神経を病んだ志乃、その志乃に私心なく仕える重左、
志乃を気遣う三之助たちなどあらゆる人物から「こんなに哀しいのならなぜ生きねばならんのか」
「それでもわしらは生きていくほかないのだ」という言葉が聞こえてくるようだ。
素朴さと優雅さを兼ね備えた文体とあいまって、それは読者の心に強く静かに響く。

石牟礼氏が彼らを描いているというよりも、彼らが石牟礼氏の心に棲んでいて
作家のペンを借りて自ら語っているような気すらする。小賢しいテクニックによってではではなく
石牟礼氏が彼ら一人ひとりになりきって書いた産物としか思えない。

人の心に在るものを余すところなくすくい取って描き出す作家、石牟礼道子。
彼女の作品は、人が人の心の痛みに余りにも鈍感になってしまった今こそ読まれて欲しい。



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